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2024 ビットコイン

ビットコイン現物ETF承認

機関投資家が伝統的な証券口座からビットコインに投資できる道が開かれ、資金の流入規模と参加者の層が一変した。

2024年1月10日、暗号資産の世界が10年以上待ち続けた知らせが、アメリカから届きました。ビットコインの「現物ETF」が、ついに承認されたのです。

「ETFが承認されれば、ビットコインの価格は一気に跳ね上がる」。暗号資産の世界では、何年も前から、そう語られてきました。では実際には、何が起きたのでしょうか。

そもそも、ETFって何?

ETFとは、「上場投資信託」のことです。証券取引所で、株と同じように売り買いできる投資信託、と考えてください。

ビットコインの現物ETFの仕組みは、こうです。資産運用会社が、本物のビットコインを買って、しっかり保管します。そして、その持ち分を小分けにして、証券取引所で売り出します。私たちは、いつもの証券口座から株を買うのと同じように、それを買えばいい。

つまり、暗号資産の取引所に口座を作らなくても、自分でビットコインを保管しなくても、ビットコインを持っているのと同じ効果が得られるのです。

「現物」と言うのは、本物のビットコインを実際に買って持っている、と言う意味です。実は、その前の2021年に、「先物」のETFが先に承認されていました。先物とは、「将来この値段で売り買いします」と言う約束を売り買いするもので、本物のビットコインを持つわけではありません。本物を持つ「現物」のETFこそが、業界が本当に待ち望んでいたものでした。

なぜ、これほど待ち望まれたのか

理由は、お金の規模です。

世界には、年金基金や保険会社、大学の基金など、桁違いのお金を動かす「機関投資家」がいます。ところが、こうした投資家の多くは、ルール上、暗号資産の取引所でビットコインを直接買うことができません。でも、証券取引所で売り買いされるETFなら、いつもの株と同じように買えます。

ETFが承認されれば、この巨大なお金が、ビットコインに流れ込む。だから価格は跳ね上がる。業界の多くの人が、そう信じていたのです。

最初の申請は、2013年

最初に申請したのは、ウィンクルボス兄弟でした。映画『ソーシャル・ネットワーク』で、フェイスブックのアイデアをめぐってマーク・ザッカーバーグ氏と争った、あの双子です。2人は早くからビットコインに大金を投じ、2013年、アメリカで初めてビットコインのETFを申請しました。

ところが、アメリカの証券取引委員会(SEC)は、首を縦に振りません。SECとは、アメリカで株や債券などの取引を監督し、投資家を守る役所です。ウィンクルボス兄弟の申請は2017年に却下され、その後も、ほかの会社の申請が次々に却下されていきました。

なぜ、10年もかかったのか

SECが心配していたのは、主に次のようなことです。

一つは、価格の操作です。当時のビットコインは、規制の緩い海外の取引所で多く売り買いされていて、誰かが値段を不正に動かしても、見抜くのが難しい状態でした。マウントゴックス事件のような出来事も、記憶に新しいところです(マウントゴックス事件はこちら)。

もう一つは、投資家の保護です。値動きが激しく、仕組みもよく知られていないものを、普通の人が証券口座から気軽に買えるようにしてよいのか。SECのトップ、ゲイリー・ゲンスラー委員長も、暗号資産には厳しい姿勢を取り続けていました。

流れを変えた、2つの出来事

止まっていた流れを動かしたのは、2023年の2つの出来事でした。

一つ目は、世界最大の資産運用会社、ブラックロックの申請です。ブラックロックは、日本の国家予算の何倍ものお金を預かる巨人で、ETFの申請がほとんど却下されたことがない会社として知られていました。実は、そのトップのラリー・フィンク氏は、かつてビットコインを「マネーロンダリング(資金洗浄)のための道具だ」と批判していた人物です。その彼が、2023年6月に自らETFを申請し、ビットコインを「デジタルの金(ゴールド)」と呼ぶまでになりました。

二つ目は、裁判です。ETFの申請を却下された運用会社グレースケールが、SECを訴えていました。2023年8月、裁判所はグレースケールの訴えを認めます。「先物のETFは認めたのに、現物のETFを認めないのは筋が通らない」と言うのです。

こうして、SECはついに承認へと追い込まれていきました。

承認の前日に、まさかの「誤報」

承認には、ちょっとした事件もありました。

2024年1月9日、正式な承認の前日に、SECの公式X(旧ツイッター)アカウントが、「ETFを承認した」と投稿したのです。価格は一気に上がりましたが、すぐにSECが「アカウントが乗っ取られた。承認はしていない」と発表し、価格は元に戻りました。

そして翌日の1月10日、今度は本当に、11本のビットコイン現物ETFが承認されたのです。

ビットコイン現物ETF承認までの道のり
最初の申請から承認まで、10年以上
2013年初めての申請ウィンクルボス兄弟(映画『ソーシャル・ネットワーク』の双子)
2017年SECが却下価格操作や投資家保護への懸念。その後も却下が続く
2021年10月先物ETFが承認本物のビットコインを持たない「先物」が先に
2023年6月ブラックロックが申請世界最大の資産運用会社が参入
2023年8月グレースケールが勝訴「先物はよくて、現物はダメ」は筋が通らない
2024年1月10日現物ETF 11本が承認前日にはSECの「誤報」も。承認直後は2割近く下落
2024年3月最高値を更新資金の流入が続き、値動きは穏やかに

期待したほどには、上がらなかった

では、価格はどうなったのでしょうか。

実は、承認された直後、ビットコインの価格は、むしろ2割近く下がりました。承認を見越して、それまでに価格が上がっていたため、「承認されたら売ろう」と考えていた人が多かったのです。それでも、その後は資金の流入が続き、3月にはそれまでの最高値を更新しました。

とは言え、何年も「承認されれば一気に何倍にも」と語られてきたことを思えば、「あれ、こんなものか」と感じた人も多かったのではないでしょうか。その頃から追いかけてきた人ほど、そう感じたかもしれません。

手に入れたのは、「信用」だった

ただ、ETFの承認がもたらした本当の変化は、値段ではありませんでした。

ビットコインは、もともと、ほかの暗号資産とは別格の存在として見られていました。それでも世間では、「一攫千金を狙う投機の道具」と言う印象がまだまだ強く、悪いイメージを持つ人も少なくありませんでした。

ETFになったことで、ビットコインは、金(ゴールド)のETFなどと同じように、証券取引所に並ぶ正式な投資商品になりました。ブラックロックのETFは、史上最速のペースで資金を集めたETFの一つになり、年金基金や大学の基金など、これまでビットコインに縁のなかった機関投資家も、ETFを通じてビットコインを持つようになります。

ETFは、ビットコインにつきまとっていた「投機」の印象を拭い去る、大きなきっかけになったのです。

なぜ、価格は跳ね上がらなかったのか

では、それほど大きなお金が集まったのに、なぜ価格は一気に跳ね上がらなかったのでしょうか。

ETFを通じてビットコインを動かすのは、ブラックロックのような大手の金融機関や、年金基金のような機関投資家です。こうした人たちが第一に考えるのは、預かったお金を、安定して増やすことです。値段が急に跳ね上がったり、暴落したりするのは、むしろ避けたい。だから、少しずつ買い、長く持つ方向に動きます。

しかも、ETFに集まったお金の多くは、限られた数の大手金融機関の手の中にあります。もちろん、彼らが手を組んで値段を操っているわけではありません。ただ、始まったばかりの新しい商品で、いきなり大胆な動きをする金融機関はありません。慎重に、少しずつ。それは、ごく当然のことなんです。

その結果、ビットコインの値動きは、以前に比べて穏やかになりました。お金が集まれば、それにつられて値段も跳ね上がる。そんな単純な話ではなかったのです。ETFと言う仕組みは、業界が期待していた「急騰」とは、むしろ逆の方向に働きました。

まとめ

ビットコイン現物ETFの承認は、10年以上の道のりを経て実現しました。業界が期待したような価格の急騰は、起きませんでした。

もっとも、暗号資産の専門家の中には、こうなることをある程度見通していた人も少なくありませんでした。ETFは、値動きを落ち着かせる方向に働く仕組みです。承認されたからといって、価格が一気に跳ね上がるわけではない。そう冷静に見ていた人たちにとっては、「やはり、こうなったか」と言う結果だったのです。

実際、その後にビットコインの価格を大きく押し上げたのは、ETFそのものではありませんでした。トランプ氏の大統領選での勝利と、2025年に発足した第二次トランプ政権による、暗号資産やブロックチェーン技術を後押しする政策です。株と同じ棚に並んだビットコインは、株と同じように、政治や経済の大きな出来事によって動く資産になったと言えるでしょう。

そしてビットコインは、金と同じ棚に並ぶ「信用」を手に入れました。一攫千金の道具から、長く持って価値を蓄えておく資産へ。

かつて銀行への怒りから生まれたビットコインが、既存の金融システムの真ん中にある証券取引所で、売り買いされるようになった(ビットコインの記事はこちら)。それは、暗号資産と既存の金融が、対立から歩み寄りへと向かう、大きな節目だったと言えるでしょう。