週次マクロレポート 第1号
ビットコインの下落と世界情勢のつながり、ステーブルコインの現在地、XRPとRLUSDの違い。チーフエディターが深掘りします。
こんにちは、チーフエディターの中嶋です。 この週次レポートでは、今週起きたさまざまなエピソードを、各分野ごとに、チーフエディターズ・チョイスとして深掘りしていきます。今週は、下記の3つをお伝えします。
- ビットコインの下落と、世界情勢のつながり
- ステーブルコインの現在地
- XRPとRLUSDの違い
1. ビットコイン、8万ドル割れ ― 背景にあるのは、戦争と原油
ビットコインは、この3日間、少しずつ下がり続け、土曜日(24日)に8万ドルを割って、約79,100ドルまで下がりました。1か月超ぶりの安値です。
この流れを表すと、次のようになります。
世界情勢の不安 → 原油価格の上昇 → インフレ(物価上昇)への懸念 → ビットコインの下落
原油が、市場に入ってこない
まず、世界情勢です。中東の戦争や、ロシア・ウクライナの戦争の影響で、原油が市場に入ってこない状態が続いています。ブレント原油(国際的な原油価格の基準)は、週の前半の110ドル超から、114ドルを経て、23日(金)の終値が116.72ドルと、4月下旬以来の高値になりました。
原油が高くなると、物価全体が上がりやすくなり、インフレへの懸念が強まります。インフレが続けば、中央銀行が金利を高く保つ、あるいは上げる、という見方が出てきます。金利が高いと、ビットコインのように値動きの大きい資産は、売られやすくなります。
今週は、そこにETFの売りが重なりました。ETFとは、ビットコインを証券口座で買える商品のことです。さらに、土曜日はETFが売買できないため、ビットコインだけが動き、強制決済(借りて賭けた取引が自動で閉じられる仕組み)が重なって、4時間で約4億ドルの買いが消えました。
世界情勢の現在地
マクロ的な見方ということで、世界情勢に触れておきましょう。
いま、米国の主要な報道は、中間選挙の話題が中心です。トランプ大統領のTruth Social(自身のSNS)の投稿も、選挙の話が多く、戦争やロシア・ウクライナについての投稿は、ほとんど見られません。戦争の影響を、自分の口からはなるべく語らない姿勢に見えます。これはあくまで私の認識ですが……。
一方で、米軍は中東で、新しい動きを続けています。神奈川県の米海軍横須賀基地を母港とする空母「ジョージ・ワシントン」が、いま中東にいて、攻撃に備えた態勢を整えている、とWSJなどが報じています。こうした報道が、原油価格とインフレへの、いちばんの不安材料になっています。
今後は?
27〜28日の米国中央銀行(FRB)の会合が、次の見どころです。中東情勢が変わらなければ、原油高が続き、インフレへの懸念も続くので、ビットコインには向かい風が続くでしょう。
2. ステーブルコインの現在地
ステーブルコインとは、ドルや円などの法定通貨を、独自のブロックチェーン技術によってデジタル化したものです。ビットコインのように値動きが大きくならないので、決済に使われます。
ビットコインは法定通貨に対抗するコイン、そしてステーブルコインは、既存の金融システムを支え、大きなイノベーションを起こす、とても重要なブロックチェーン技術の一つと考えます。今週の動きを、地域ごとに見てみます。
米国 ― 法律と大手銀行が動いた
規制:銀行が反発する理由
米国の通貨監督庁(OCC)が22日、ステーブルコイン法「GENIUS法」(2025年に成立)の最終規則を発表しました。争点は「利回り」です。
GENIUS法では、ステーブルコインを出す会社が、利息を直接払うことは禁止されています。ただ、取引所などの第三者が「報酬」として利回りを出せるかどうかは、あいまいなままでした。最初の案には「提携先を通じた利回りは違法とみなす」という推定規定がありましたが、最終規則で、それが削除されました。
これに、銀行業界が強く反発しています。理由は、お金の流れです。ステーブルコインで利回りがもらえるなら、預金をそちらに移す人が出ます。預金は、銀行が貸し出しをするための元手なので、預金が減れば、貸し出しも減ります。全米独立コミュニティ銀行協会(ICBA)は、地域の銀行の貸し出しが、最低でも約8,500億ドル減る可能性がある、という試算を出しました。(協会が想定したシナリオで、確定した結果ではありません。)
一方、暗号資産業界の団体は、最終規則が法律の条文に近づいたと評価しています。規則は、2027年1月18日に施行される予定で、銀行と暗号資産業界の綱引きは、まだ続きそうです。
大手銀行:JPMorganの「JPM Coin」
JPMorganが19日、預金トークン「JPM Coin」を、機関投資家(大口の投資家)向けに、Ethereumでも使えるようにしました。預金トークンとは、銀行に預けたお金(預金)を、ブロックチェーン上のトークンにしたものです。
何が変わるのか。JPM Coinは、24時間送金でき、決済が数日ではなく、数秒で終わります。同行のKinexysというネットワークは、すでに1日70億ドル超の取引を処理しています。ただ、同行の決済事業全体は1日約12兆ドルなので、まだ小さな割合です。
個人向け:SoFiの「SOFIE」
SoFiが23日、利息付きのトークン化預金「SoFi Earn(SOFIE)」を始めました。SOFIE1枚が、SoFi Bankの預金1ドルに相当します。年率は4.4%で、預金保険(FDIC)の保険が、適用上限の範囲内で付きます。米国の国法銀行が、個人向けに提供するのは初めてだと、SoFiは説明しています。
ここが、ふつうのステーブルコインとの違いです。ステーブルコインは、通常、利息が付かず、預金保険の対象にもなりません。SOFIEは、預金の保護と利息を保ったまま、暗号資産の取引や送金にも使えます。会員は、SOFIEを、ステーブルコイン「SoFiUSD」に1対1で交換でき、暗号資産の購入や、外部ウォレットへの24時間送金に使えます。(交換したSoFiUSDは、預金保険の対象外です。)
SoFiは、9月にSoFiUSDで、Mastercardの決済網でのカード決済の精算を始めており、そのカードプログラムの年間取引額は、250億ドル超になる見込みと説明しています。
アジア ― 銀行が発行し、アプリに入る
香港:HSBCの「RedCoin」
HSBCが24日、初のステーブルコイン「RedCoin」(香港ドル建て)を、決済アプリPayMeで始めると発表しました。PayMeは、利用者が330万人超、使えるお店が10万か所超の、香港では身近なアプリです。
数日のうちに、アプリの中にステーブルコイン用のウォレット(財布)を作れるようになり、友人や家族への送金や、お店での支払いに使えます。HSBCは、RedCoinが、高品質で流動性の高い資産で全額裏付けられ、その資産は別の口座で保管されると説明しています。
何が変わるのか。これまで、ステーブルコインを使うには、暗号資産の取引所の口座が必要でした。銀行が出し、いつものアプリに入ることで、取引所の口座を作らなくても使えます。香港金融管理局(HKMA)は、4月に、ステーブルコインを発行できる最初のライセンスを、HSBCと、スタンダードチャータード主導の会社に与えており、制度の整備が、先に進んだ形です。
韓国:Shinhan CardとSBI
韓国のカード会社Shinhan Cardと、日本のSBI系の2社(SBI VC Trade、SBI XDC Network APAC)が、円建てのステーブルコインを使った、日韓間の決済を検討します。SBIは、日本を代表する金融グループで、海外の暗号資産関係者からも、よく知られています。
背景には、日韓の往来の多さがあります。2026年1〜8月だけで、両国を行き来した人は1,000万人を超えています。Shinhan Cardは、会員が約2,000万人で、親会社のShinhan Financialは、8月にVisaと、ステーブルコインの発行、送金、カード決済を検討する合意をしています。SBIは、SBI新生信託銀行が出す円建てステーブルコイン「JPYSC」をすでに扱っており、流通量は、9月7日時点で約201億円です。SBI VC Tradeは、2025年3月に、日本で初めて電子決済手段(ステーブルコインなど)を扱う事業者として登録されました。
ただ、プロジェクトは初期段階です。使うステーブルコインも、試験の時期も、商用化の時期も、決まっていません。日韓、両国の要件を満たす必要もあります。
日本 ― 国をあげて、方針を固め始めた
日本は、ステーブルコインに、どう向き合っているのか。金融庁が19日に公表した、「AI時代を見据えたオンチェーン金融フォーラム」第1回会合(9月30日開催)の議事録が、手がかりになります。
座長は、片山さつき金融担当大臣です。デジタル庁、財務省、日本銀行、全国銀行協会が出席し、2027年初めに、中間整理と、官民で進めるロードマップをまとめる方針を確認しました。各省庁の動きは、次の通りです。
- デジタル庁: 子育てや食料品など、使い道を限った給付に、ステーブルコインやトークン化預金を使えるかを、技術面から検討します。
- 財務省: 国債を、ブロックチェーン上で扱えるようにするための研究会を立ち上げ、10月8日に初会合を開きました。
- 日本銀行: 日銀当座預金(銀行が日銀に預けているお金)を、ブロックチェーン上の決済に使うための技術検証「DLT連携サンドボックス」を進めています。
会合の資料では、世界のステーブルコインの発行残高は約3,100億ドルで、そのうち83%がドル建てです。円建てでは、2025年10月に、国内初の円建てステーブルコイン「JPYC」の発行が始まり、SBI系のJPYSCも動き出しています。世界のほとんどがドル建ての中で、円建てをどう育てていくかが、日本の課題です。
3. XRPとRLUSD
ステーブルコインの流れの中で、もう一つ、XRPを深掘りします。
これまで ― 国際送金の会社
Rippleは、国際送金の分野で、銀行と組んで広がってきました。日本でも、三菱UFJ銀行がブラジルの大手銀行と、Rippleの技術を使った日本・ブラジル間の送金サービスの開発に取り組む覚書を結んだり(2018年)、SBIがRippleの送金ネットワークを広げたりしてきました。
今週も、シンガポール当局が進める国際決済の実験「BLOOM」に、マレーシアとタイの中央銀行が加わりました。Rippleも、その参加企業の一社です。
いま ― 米国内のステーブルコインにも
そこに加わったのが、RLUSDです。トランプ政権の下で、米国はステーブルコインの法律(GENIUS法)を整え、金融機関がブロックチェーンの技術を使いやすい環境ができました。その中で、USDT、USDCに続いて、Rippleも、ドル連動のステーブルコインを投入した、ということです。
今週は、スイスの決済会社Arfが、RLUSDを使って、決済事業者への運転資金の貸し出しを始めると発表しました。国際送金では、着金までの間、事業者がお金を立て替える負担がありますが、そこをRLUSDで軽くしようという取り組みです。
株式市場でも、XRPを主要な資産として持つEvernorthがNasdaqに上場し、約4億7,300万XRPを保有しています。
XRPとRLUSDの違い
Ripple社が出している、XRPとRLUSD。この2つの違いを、整理します。
- XRP: 国際送金でお金が移動するときに使われる、トークンです。
- RLUSD: 米国内や銀行間で使われる、ドルと連動するステーブルコインです。
来週の注目点
今回は、上記3つの内容を解説してきました。ビットコインの下落と、原油・インフレ・世界情勢のつながり、ステーブルコインの現在地、そして、XRPとRLUSDの違いです。
来週の注目点としては、これに引き続き、次の3つです。
- 27〜28日のFRB会合(原油高とインフレの見方、ビットコインへの影響)
- 月曜に、ビットコインETFが、売りから買いに戻るか
- 米国のステーブルコイン規則が、銀行と暗号資産の関係をどう変えるか
それでは、最後まで読んでいただいて、ありがとうございました。また来週、お会いしましょう。
本レポートは情報提供を目的としており、特定の暗号資産・金融商品の売買をお勧めするものではありません。投資の判断は、一次情報や公式の発表をご確認のうえ、ご自身の責任のもとで行ってください。当サイトは一部にAI(人工知能)を使用しています。